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森田氏が建設業に初めて触れたのは、なんと中学生のころ。父親や兄が同じ職種に就いていたが、「親のもとで働くのは嫌だった」という強い自立心から、知人のツテを頼り自ら現場に飛び込んだ。
「もう気合いだけで入れたんで」と当時を振り返る森田氏。ただ、その後もさまざまな仕事を経験しながら、本格的に「これで飯を食おう」と腹を括ったのは19歳のときだった。
きっかけは、父と兄との衝突だった。家を出ることを決めた森田氏は、タウンワークでクロス屋を検索し、一番上に出てきた会社に飛び込みで入社する。ところが実際に配属されたのは、床仕上げ工事の現場だった。
「クロス屋で調べて入ったと思ったんですけど、って言ったらもうクロスなんかやめとけって言われて。床の方がええぞ、と」
戸惑いながらも初めて床材を手にしたその瞬間、森田氏の中で何かが弾けた。
「初めて床材を触った時に、『あ、これ俺いけるなあ』と思って。電撃が走ったんですよ、僕の中で。こんな仕事あったんやと思って」
一発目の現場で「確実にこれで飯食っていける」と確信を得た森田氏は、そこから約1年半修行を重ねて独立。個人事業主として経験を積んだのちに、2024年8月、株式会社T.Arenovationを法人化した。現在は大阪府東大阪市を拠点に、関西一円で活躍している。
T.Arenovationの強みは何か。そう問いかけると、森田氏はこう答えた。
「クレームが来ないですね」
シンプルながら、これほど力強い言葉はない。現場でクレームが発生することは、中小建設業にとって信頼損失や工期遅延に直結する深刻な問題だ。それを「来ない」と言い切れる背景には、創業以来積み上げてきた経験と徹底した品質意識がある。
「昔はもちろんあったんですけど。経験していったらやっぱりこう言われるなあとか。言われる前に、自分がそれを潰していくっていう。それが普通ぐらいの感覚になっていった」
現在は、元請けや施工管理者から丸ごと任される「請け負い」スタイルがメイン。監督のチェックが入る前に、自らが仕上がりを精査し、懸念点をすべて先回りして処理する。これが「クレームゼロ」を支えている。
また、仕事における強みとしてもうひとつ挙げたのが「レスの速さ」だ。問い合わせや相談への迅速な対応は、特に緊急性の高い現場では大きな差別化になる。「いつでも動けますよというアピール」として、ホームページに「緊急依頼」のページを設けていることもその表れだ。
現在の体制は、従業員1名と4〜5社の協力業者。床工事は自社でこなしつつ、クロス工事は信頼のおける協力業者に任せる。「床でも利益を上げつつ、クロスでも利益を上げつつというのが、今一番合っている」と語るように、仕事の幅を広げながらも品質を落とさない仕組みが整っている。
中小建設業を取り巻く環境は、決して楽観視できる状況ではない。とりわけ内装業界では、クロス施工を担える職人の不足が顕在化している。
「結構今、クロス屋さん足りひんくて。クロス屋って調べる人が多いですよ」と森田氏も実感している通り、職人の供給不足は発注側・受注側の双方に影響を与えている。
また、若い職人の育成と品質管理の両立も、経営者として頭を悩ませる課題のひとつだ。
「若ければ若いほど、経験が浅ければ浅いほど、やっぱり品質が落ちる。だから今はちゃんとした業者と組んで、ちゃんとした仕事をしてもらっている」
職人を自社で育てることへの意欲はありながらも、今の段階では「品質を守ること」を最優先に据えている。信頼できる協力業者の輪を着実に広げることで、受注が増えても品質を一定に保てる体制づくりを進めている。
「人脈だけは広い」と自身が語るように、業界内での横のつながりを大切にしながら、中小規模ならではの機動力と丁寧な仕事で、大手にはできないスピードと品質を実現している。
創業からまもなく1年。森田氏はすでに次のステージを見据えている。
今後の主力として力を入れたいのが、飲食店・クリニック・美容室・老人ホームなどの店舗・施設工事だ。「店舗の方がいいな、やっぱ」とその目は決まっている。
店舗オーナーや施設担当者から直接依頼を受け、内装工事をひっくるめて任せてもらうスタイルが理想だという。「BtoBもBtoCも両方」という言葉の通り、元請けからの下請け受注と並行して、エンドユーザーへの直接提案も視野に入れている。
事業の規模拡大については、従業員を増やして組織をつくるよりも、信頼できる協力業者のネットワークを広げながら仕事量を増やしていく後者の方向性を選んでいる。
「後者でどんどん大きくしていきたい。若い職人を育てる気持ちはもちろんあるけれど、今は品質を守ることが一番大事」
東大阪を拠点に関西一円へ。そして将来は関西を超えた広域での存在感も見据える。中学生のころから現場に立ち、19歳で床材に電撃を感じた少年は、今、経営者として着実に前へ進み続けている。
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「建設円陣PLUS編集部」は、建設業界に特化したプラットフォーム「建設円陣」を運営する株式会社エンジョイワークスの編集チームです。中小建設業の経営・人材・現場課題を、国土交通省・厚生労働省、業界専門紙や公的機関の情報をもとに解説します。
取材を通じて印象的だったのは、森田社長の「クレームが来ない」という言葉の重さでした。それは経験から生まれた先手の品質管理であり、若くして自立を選んだ現場人の誇りそのものでした。法人設立から1年、東大阪の内装業界で確実に存在感を高めるT.Arenovationのこれからに注目です。